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久しぶりに、本のレビュー記事です。 4月に広告業界を離れて、出会う人や、読む本が変わりました。 広告業界にいたときは、おそらく読まなかったけれど、「広告業界の未来」を感じる本。 今回は、独断と偏見で、そんな本を3つのジャンルにわけて紹介していきます。

●お金の知識で、広告業界を変える本
●人間への知識で、広告業界を変える本
●事業の知識で、広告業界を変える本


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●お金の知識で、広告業界を変える本

 「価格の心理学」 広告業界にいると、プライシング(価格設定)にまで携われる経験は少ない。しかし、人の認識を変えるプロである広告業界こそ、プライシングに関わると売上に貢献できるチャンスがあると感じています。 「価格」は、その商品やサービスが、顧客からどのカテゴリーに認知されるかによって大きく変わります。 たとえば、「400円の水素水ペットボトルを、水カテゴリー」で売ったら高く感じるが、「400円の水素水ペットボトルを、エナジードリンクカテゴリー」で売ったら顧客の反応も売上も大きくちがってくるはずです。つまり、「プライシング」は、ブランディングやコミュニケーションと密接に関係しており、広告業界が「売上」にコミットできる領域になり得るということ。たとえばリ・ブランディング費は原価に近い値段で請求し、その分、売上に応じて追加でマージンをいただくなど、広告会社の新しいマネタイズに発展できるかもしれません。

「バリュエーションの教科書」 4月以降、金融業界出身者の人とも働くことが多くなった。 個人的に発見があったのは、金融業界出身者からすると、すでに電通は「広告会社」に見えていないということ。完全に「海外ネット企業を買収するM&A企業」のひとつだと思われている。 すでに売総の50%以上は海外事業であり、国内のメディアを賑わせた2016年だって、株価はほとんど落ちていない。(最近は落ち込んでいるけれども) これは個人的な意見ですが、社員数8000人で年収1200万円以上を維持するためには、フィーやコンサル領域で稼ぐには限界があると思っています。(社員数が300人くらいだったら実現できるかもしれないが) いま「働き方改革」は、労働時間や環境が問題視されることが多いですが、個人的には「金融技術」に答えがあるのではないかと考えています。お金のために人が働くのではなく、人のために「お金」に働かせる改革ができれば「労働改革=経営戦略」になりえると。電通は、日本中の企業と、顧客の情報が集まる企業。広告クリエーティブ×金融技術は、大きなイノベーションを起こせると思っています。※このテーマに関しては、また記事を書きます。 また余談ですが、ベインキャピタルがADKを買収した理由も、この本を読め考察できるようになります。

●人間の知識で、広告業界を変える本

「マインドフルネスストレス低減法」 マインドフルネスの本は、ノウハウしか書かれていないことも多いのですが、この本は「臨床心理学」の学者が書いた本。マインドフルネスのノウハウだけではなく、その考え方も説明されており、文章自体にとても発見があります。通常の概念の逆をついてくるので、コピーライター的な学びも多い本です。 この本に「広告業界の未来」を感じた理由はふたつあります。 ひとつは、考える仕事に就く人ほど、考えないという時間をつくり、脳を休ませる時間を意図的につくることが、パフォーマンスを高めるのに重要だと言う点。社内研修に取り入れてもいいくらいだと思います。 ふたつは、言語や思考から解放され「ありのままに」感じるということが、企画やコピーを考える上でも、技術になりえると感じています。 たとえば「焚き火」の価値はなんだろうと考えるとき、コピーライター的な思考では「メリット、顧客、競合、社会」の視点から考えます。 そうではなく思考をとめて、ありのままに焚き火を感じてみる。例えばそこで「たき火には、人に本音を言わせる力がある」という発見に気づいたとしたら、思考から考えるのとは全くちがうコピーや、企画&ビジネスが生まれる可能性があります。 新入社員のころ、60歳ちかくのコピーライターに「コピーをかけるようになりたいなら、夕日をみろ」と言われて、驚いたことがあるのですが、いまはちょっとわかる気がします。 ことばや思考から解放される「ことばのアイデアの生み出し方」をテーマに、いつか「コピーライティングシステム」の続編を書きます。

「ヤフーの1on1」 4月からマネージャーをやってる上で、参考にした本です。広告業界のときは「1on1」なんて概念も知らなかったし、部下と上司が、定期的に話す時間なんてムダだと思っていました。 とくに広告業界は、部として動くことよりプロジェクトベースで動くことが多い。だからタイミングによっては、部長と話す機会は、半年の一回の評価面談しかない、ということもざらにあった気がします。 でも「仕事」や「一人」で成長できるのには、限界があるなとも感じています。俯瞰的に、じぶんの特性や仕事をみて、未来を誘導してくれる人(上司)が必要だなと感じています。 広告業界では「飲み会」という場で、人生のことを学んだり、仕事を抜きにして語り合うということができていたのですが・・・最近は、その飲み会の数も減っていると聞きます。 広告業界も、人が資本な業界。 プロジェクトベースでマネジメントが行われやすく、かつ「仕事以外」のことを話し合える飲み会も減るなかで、定期的に部下と上司が話す機会を設けることは、会社としてもいい「投資」だと思うのです。
「技法以前―べてるの家のつくりかた」 この本では、北海道にある精神障害者の活動拠点「べてるの家」の試みが紹介されています。「人の認識を変え、行動を変えていく」という広告の技術は、精神医療の考えと、とてもちかい。 ぼくがマネジメントしている部に、精神障害のある方もいたのですが、とても大きな学びがありました。障害者の方は、人とちがう課題を感じやすく、表現や企画のヒントがたくさん眠っていると感じています。 なんだかんだ、広告業界にはタフな人が多く、障害者と接することや、じぶんとはちがう課題意識を持っている人と出会う機会は少ない。 「課題発見」力が求められる広告業界において、この本には大きな学びがあると思います。また、もし電通や博報堂から、「障害特性を活かしたクリエーター」が世の中に排出できたら、社会的意義もあるし、新しい表現も開拓できるかもしれません。

●事業の知識で、広告業界を変える本

「起業の科学 スタートアップサイエンス」 スタートアップをスケールさせるための、フレームワークがまとまっている本です。とくに発見があったのは、スタートアップの多くのビジネスアイデアが「課題ドリブン」ではなく、「ソリューションドリブン」「プロダクトドリブン」「技術ドリブン」で突き進んで失敗している、と指摘している点。「痛みのある課題」がないと成功しないと、実例もあげて主張しています この先、広告会社では、よりクライアントの事業開発に近い仕事をしたり、新規事業を始めたりすることが増えると予想されます。ぼくがいたときも「アイデアコンテスト」みたいなものがたまにあったのですが・・・ クライアントワークでは「課題ベース」で考えることが多いのに、ゼロから事業アイデアを考えていいよと言われると「やりたいことベース」「技術ベース」「アイデアベース」で考えちゃうことって多いなと思います。ぼくもそうだったなと。 ふだんはクライアントワークで、やりたくないことも含め、やらなくちゃいけないなかで、ビジネスアイデアを考えようとすると「つくりたいプロダクト」や「つかいたいテクノロジー」に引っ張られて、ただのおもしろアイデアで終わる傾向があるなと(爆)それは、とてももったいないなとも思っています。広告クリエーティブ・プランニングは、「課題発見」の技術でもあって、ビジネスの種を発見をするプロにもなれるはずだと。そして、その見つけた種を、高いクオリティでアウトプットにつなげることができ、世の中にコミュニケーションしていけるプロにもなれると思っています。

「逆説のスタートアップ思考」 「起業の科学 スタートアップサイエンス」が網羅的にフレームワークをまとめているのに対して、この本では「通常の概念の逆」に絞ってスタートアップのノウハウがまとめられています。コピーとしても発見があり、読みものとしても面白いです。 電通のときから、商品開発の仕事もしていたのですが、妻と経営してるデザインファーム「the Tandem」を始めてから、より長期的な商品&サービス開発の仕事が増えています。事業や経営の知識があり、表現だけではなく「売上」にこだわるクリエーターやプランナーは、まだまだ広告会社に少ないのではないかと。それはあたりまえで、じぶんたちで事業をしたことがないから。広告会社のなかで、事業経験をつめるキャリアをつくることは、この先かなり重要なんじゃないかと感じています。 ちなみに来年、夫婦でスモールビジネスをいくつか立ち上げます。スケールすることが優先なスタートアップではなく、じぶんたちの「人生」を豊かにする、じぶんたちの「人生の痛み」を解決する商品をいくつか出してみます。
「取引先を“稼ぐ企業”に変える方法教えます!」 「電通を辞める前に、読んでよかった本 BEST30」でも紹介した、中小企業支援のエキスパート小出宗昭さんの新作です。 中小企業の売上を、アイデアの力でいかに伸ばすか、について実例とノウハウが書かれています。いままでの小出さんの本の中で、より実践的な内容が書かれています。 大手広告会社になると、金額的に大企業しか相手にできないことも多いのですが、労働時間の一部を、中小企業を相手にした方が、経営者とダイレクトに仕事ができスピード感も速くなるので、新しいこともできそうだと感じています。 また広告予算でマネタイズしにくいぶん、そのぶん売上連動マージンや、株をもらっておくなど、中小企業だからこそできるマネタイズの仕方もありそうだなと。 とくに若手&中堅が、事業経験や経営者と働く経験をつむために、中小企業をクライアントに働く「中小企業部」みたいなものがあると、広告会社としても新しい仕事や収益源が生まれる気がします。

最後に

「広告業界の未来がみつかる!?」をテーマに、いくつか本を紹介してきました。 広告業界を離れてみて、ひとつ感じたことがあります。 それは広告業界出身者を、色眼鏡で見ていたり、バカにしている人って、けっこう多いなと(爆)。とくに20〜30代の若い経営層こそ、そう思ってることが多い気がします。(ほんとにぼくの主観です) 逆に50代以降の経営者は、電通に対して「なにかしてくれる人たち」という期待を持っくれる人が多い気がします。

たしかにリクルートや、戦略コンサル、商社と比べて、ビジネス界で活躍している広告業界出身者って少ない。 広告クリエーターやプランナーの「課題発見力」「アウトプットのクオリティの高さ」は、ビジネスにおいて高い競争優位性があるのに。とはいえ、広告業界には、経営やビジネスに関して勉強不足な人も多いことも事実。アイデアを考えることで終わらせて、実行までやらないことが多いのも事実。だとは思いますが。

事業会社で働いてみて思うのは、ビジネスにおけるスキルって、本当に幅広いなあと。どんなに頑張っても、人はその数%くらいしか会得できないと思うんです。その数%で飯を食わせてもらっているというか。 でも、じぶんができないことを知って、じぶんができないことに、じぶんの強みをいかしていくことがとても大切で、いろんな革新も生まれるとも思います。

2018年は、またすこし働き方を変える予定です。 いまはいろいろ手をだしてしまっているのですが、「夫婦の幸せ」を追求することへの比重を高めようかと。実験的に走らせてきた「the Tandem」で、なんとか生きていけることがわかったので、30代前半は、夫婦でおもいっきりやってみようかなと。またこれから一年、どんな人や、どんな発見と出会えるのか。そのとき、広告業界という愛すべき古巣になにを思うのか。 楽しみだったりします。また半年後くらいに、本のレビューを書きます。

圏外コピーライター 銭谷侑

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