未来をつくることば 2020 <ニューヨーク・ポートランド編>

未来をつくることば ポートランゴ&ニューヨーク編

パンデミックになる前、2020年の初めにオランダ→ニューヨーク→ポートランドと、世界をぐるっと一周まわりました。

かなり時間があいてしまいましたが、前回のアムステルダム編に続き、今回はアメリカ(ニューヨーク、ポートランド)で見つけた「未来をつくることば」について書いていきます。

いま思い返しても、発見に溢れた体験でした。より良い未来をつくるための企画やコンセプトを考えている人に、少しでもヒントをお届けできたら嬉しいです。

<ポートランド編>

1、ADU(Accessory Dwelling Unit)

ポートランドにある「The Tiny House Hotel」に滞在したさいに、はじめて耳にしたことば。
「ADU」とは、母屋とは別に建てる、小さな住居のこと。日本でいうと「離れ」に近いことばです。

ポートランドでは地価・家賃が高騰しており、土地に余裕がある人が、庭に小さな住居をつくり貸し出しているそう。「Backdoor Revolution」という本が、ADUのバイブル本らしく、管理人さんにオススメされました。

ADUの作り方はもちろん、貸し手・借り手・街にとっての経済メリットなども分析されています。日本だとメディア「YADOKARI」の思想と近いかも。

日本でも地価が上がっている都市はもちろん、土地に余裕がある地方こそ、ADU発想で面白いスモールビジネスが生まれそうな可能性を感じました。

 The Tiny House Hotel(Booking.comより)

2、Human Scale Town

ポートランドの一部のエリアには、「重機での建物の解体を禁じ、手作業で壊す」というルールがあるそうです。地元の人は、「Human Scale」の街づくりということばで表現していました。

その条例があると、しぜんと壊さないことを前提にした家を建てるようになる。建物を大切に使う工夫をするようになる。「手で壊す」というルールそのものが、すごくクリエイティブです。

規制するルールが、もはや人の創造性を高めることにつながっている。「人を創造的にする規制やルール」という発想は、SDGsや政治などの他領域でも活用できそうです。

またポートランドには、「ReBuilding Center」という廃材を循環させるための施設があります。もともとDIYの文化があったポートランドに、創造的なルールや、ハブになる場所がかけあわさることで、さらにDIYカルチャーを強める循環が生まれていました。

ReBulding Center@Portland

ちなみに、ReBuilding Centerを日本で立ち上げた方がいます。それが長野県諏訪市にある「ReBuilding Center JAPAN」。興味のある方は、コンセプトブックを読むとさらに理解が深まります。

3、Neighborhood Association

ポートランドには、「Neighborhood Association」という、街づくりに市民が参加する仕組みがあります。ざっくりいうと「予算がついた、実行力のある町内会プロジェクト」みたいなもの。

現地の方が言うには、市民にしぜんと政治に関わらせ、政治家を育てる仕組みになっているとのこと。じっさいに「Neighborhood Association」から、何人もの政治家が生まれています。

投票に行くことを促すより、しぜんと町について考える・行動する環境を整えた方が、人は政治に興味を持ちやすいのかもしれません。そういうことは東京よりも、小さな町のほうがやりやすそうです。

地方が、若い政治のリーダーを育てる場所に。そしてシチズンリーダーシップを発揮した地方から、日本の政治のリーダーが生まれてくる時代になると、個人的にはワクワクします。

4、New Seasons Community

New Seasons Marketは、ポートランドにあるスーパーマーケット。

地元の生産者を応援するため、ローカルファーマーと取引を行い、地域のコミュニティのハブになる活動を展開されています。

店頭ではローカルファーマーたちがつくった商品は一目でわかるようになっており、また壁面にはスーパーマーケットの価値観が掲出されていました。単にモノを売る場所をこえた場所・コミュニティを目指しているのが伝わってきます。

個人的に面白いと思ったのが、店員さんがイキイキと働いていたこと。たとえば、りんごを試食してみたいときは、「Can I Try?」と聞くと、タタでその場でりんごを切って試食させてくれます。青果品に関しては試食させていいという権限が、店員にもあるみたい。

また社員が副業でつくっているお菓子(もちろん地元の素材を使ったものも)が売っていて、企業カルチャーや働き方がイケてるなぁと思いました。

壁面に描かれた行動指針、試食させてくれる店員、店員が副業でつくったクッキー

5、「KEEP PORTLAND WEIRD」

ポートランドのスローガンです。「変わり者であれ」という意味。もともとはテキサス州オースティンで使われていたスローガン「Keep Austin Weird」から引用したそう。

街を歩いていると、いろんなところで目にします。変わり者や、マイノリティでい続ける、ユニークな生き方が評価される。そんなカルチャーの象徴となることば。

人が集まってくると地価があがる。地価があがると、もともとその場所の文化をつくっていた人たちが住めなくなり、文化が衰退する。街の経済的成長と文化的成長は、必ずしも比例しない。逆行さえするという、世界の都市で起きている現象に、一石を投じることばでもあるなと思いました。

ポートランドは、ナイキやコロンビアなどの大企業の本社もありますが、そこでスキルを磨いてからスモールビジネスを起こす人も多いそうです。多様な小さなビジネスを始めたり、応援し合う文化があるのも、「KEEP PORTLAND WEIRD」らしい事象です。

http://www.keepportlandweird.com/

6、FOREST PARK

ポートランドで、身体としていちばん記憶に残っているのがトレッキングです。街の中心から、バスで20分くらいで山にいけます。散歩感覚で、山にいける距離感。

ぼくは1hくらいの初心者コースを歩きましたが、文化と自然の双方へアクセスしやすいのは素晴らしい。日々の暮らしの中で、<都市と自然>、<意味の世界と感覚の世界>のチャンネルを変えることができるのは、人に休息を与え創造的にもさせるなと感じました。

日本の地方都市や、リモートとリアルを組み合わせるハイブリッドな働き方とも相性が良さそうです。

<NY編>

7、「Food Coop(コミュニティ生協)」

ブルックリンにある 会員制のスーパーマーケット「Food Coop」。

メンバー限定の生産者直通スーパーで、メンバーになるには「店舗で実際に働く」という条件が課せられています(最低月3時間くらい)。約17,000人の会員がおり、ビジネスパーソンは週末や夜に働いているそう。

もはや働く人と、買いに行く人の境界線が曖昧なのが面白い。
企業は、何かしらの目的やビジョンを実現したいと思う人の運動体なわけで、このスーパーに限らず、社員とユーザーの境目は溶けていき、なめらかになっていってるよなぁと。ポートランドのスーパー「New Seasons」といい、コミュニティのハブとなるスーパーマーケットはあつい!

8、「脱Human Centered」

NYにある美大「Parsons School of Design」大学院生の皆さんと飲む機会があったのですが、その研究内容が興味深かったです。

そのひとつが「Human Centeredは古い。AIも人間を学習すると、人間の主観が入る。いかに人間の主観を排除するのか?」みたいな研究(難しくて完全には理解できなかった)。

IDEOが「Human Centered Design(人間中心デザイン)」を掲げていたり、Human Centeredはイケてるワードとして使われることが多いと思うのですが、よくよく考えると「人間中心」は、人間の身勝手でネガティブものとしても捉えられますよね。

人間の課題を、人間視点だけで解決するのは難しい領域も多いわけで。たとえば、「他の生物中心」「地球中心」みたいに捉えた時に、人やデザインが生み出せる価値や役割は変わる可能性もあるよなぁと。

たとえばコピーライティングも、人の認識や行動を変えていく技法として活用されることが殆どですが、生物や地球みたいなスケールにかえたときに、ことばが何をできるか考えてみると可能性が広がりそうです。

「脱Human Centered」について興味がわいて、いろんな文献を調べてみたのですが、この2冊は面白かったです。

「are we human?」我々は 人間 なのか? – デザインと人間をめぐる考古学的覚書き
→そもそも人間中心の、「人間」という定義を疑ってみる本。デザインの本当の狙いは、人間をリ・デザインするみたいなことが描かれている本。

ヒューマンスケールを超えて
→「人にやさしい尺度から、地球にやさしい尺度へ。」スケールをかえて、デザインの意義について探求していく本。

あと大学院の学費がざっくり2000万というのは驚きました。円安が進む今は、さらに高いかも。
アートは金がかかるなと。権威に対するアンチテーゼとしてアートやクリエーティブというのはあって欲しいと個人的には思いますが、アートが権威化され、強いものをより強者にするものになっていくのはあまり好きでないです。

9、「Package Free」

Package Free Shopは、NYに数店舗あるゴミを出さないお店。

エコにこだわった生活グッズが、たくさん置いてあります。グッズのジャンルが多様で、アダルトグッズまでありました。

エコのために買うというよりは、まずオシャレで楽しい。オシャレや楽しさが先にきて、結果的にそれがエコみたいな、押し付けがましくないのが良かったです。またバンブー(竹)を活用した製品が多くあり、日本の竹林問題とかけあわせることで、何かできないものかとは感じました。

おまけ:Konmariさんを題材にしたアート

ちょうど「The Armory Show(でっかな美術の展覧会)」が開催されており、そこで見つけたアート。アートの対象になるってすごい。ジャパニーズシンボルですな。

Artには「i said DOES IT SPARK JOY?」のコピー

もう2年以上前の旅でしたが、今でも発見があった旅でした。
ついつい仕事ばかりして、ブログは放ったらかしになっていましたが、今年は書く頻度を増やします。
2021年3月に千葉の外房に移住して、秋には新たな家族も増える予定です。
日常の中でもたくさんの発見があるので、書き残しておきたい。

©︎圏外コピーライター 銭谷侑