こどものことになると「これでいいのかな」と不安になるのはなぜだろう。じぶんのことなら、世間とちがう道を選んでも平気なのに。
先日、こども園への入所申込をしてきた。ぼくらの住む町では、入所の1年前から受付が始まるので、申請だけすませておいた。
外房の田舎に住んでいるので、町全体でも4つしか保育施設はなく、都会にあるようなモンテッソーリやインターナショナルなどの選択肢はもちろんない。もし東京にいたら、プリスクールにでも入れて、世界中どこでも生きていけるように可能性を広げておきたいとか考えちゃうのかな。
ひょっとしたら地方に移住したこともぼくら夫婦のエゴで、こどもの可能性を狭めてはいないか?そんなことも含めてぐるぐると考えたが、結局、自宅からいちばん近いこども園で希望を出した。出生前に夫婦で見学したさい、場所や職員さんの雰囲気が明るく感じたからだ。
「ねぇ、どう思う?」こどもに聞いても、まだ答えられるはずがない。
息子は、NICU(新生児集中治療室)からGCU(回復治療室)に移ることができ、身体につながっていたチューブ・点滴・拘束器具がはずれ、みるみる回復している。はじめての授乳、はじめての沐浴、はじめての◯◯の連続だ。その中で、人が「学ぶ」ということに関して、はっとさせられる場面があった。
はじめて手足の拘束がはずれた時。手足を動かせることが理解できず、じぶんの動きにじぶんでびっくりするくらいパニックになっていたが、ものの10分くらいで理解したようだ。ここ最近は、からだを動かすのが面白いのか、「新手の酔拳か!」というほどグングン動かしている。
はじめて沐浴した時。最初は、水という存在がわからないのか、「わはぁはっあっ」と慌てふためきながら手足をドタバタさせた。1分ぐらいすると水が敵ではないということがわかったのか、気持ちよさそうな表情をして、妻にからだを拭かれていた。
そうか人は、「わかろうとしたい」生き物なんだ。「わかりたい」。人に希望を与えてくれる、なんて素晴らしい欲求なんだ。人は、わかりたいんだ。そんな当たり前のことを息子は教えてくれる。
こどもの「わかろうとすること」や「夢中になれること」に、ただ寄り添えばいいだけなのかもしれない。教育なんていうと堅苦しいから、「人が学ぶ」ということに対して、息子の前で、じぶんのことばで自然体に伝えられることは何だろう。光を感じる行動は何だろう。夫婦で話し合ってみた。
「親自身も楽しそうに学び、自然体でいること」
里山と海のそばで、庭のある生活は、ぼくらには合っている。知らない草花が生えてきたり、見たこともない虫が大量発生したり、果樹がおいしく育つ方法をあれこれ試行錯誤してみたり。
自然は、まだまだ世界を知らないことを思い知らせてくれて、その年齢その年齢に合わせたことを教えてくれる。あらゆる経験や知識がつながっていく感覚。
こどもがどこで何を学ぶのが正解かなんてわからないけれど、「学ぶのが楽しい」という感覚は贈ることはできる。なんだか大人になっても楽しそうに学んだり、失敗してる人がいるなって。
「消費する家族ではなく、生産する家族でいたい」
教育は、いくらでもお金をかけられる底なし沼でもある。良かれと思ってあれもこれも消費しようとし、いつしか学ぶことが受動的になっていたりする。それよりは、最初から「完璧なものなんてない」という心持ちのほうが、どんな道も正解にできる気がして、心が軽くなる。
お膳立てされすぎるより、ちょっと足りないくらいのほうが、人はたくましく創造的でいられるのかもしれない。じぶんが学生のころを振り返ってみてもそうだ。
理科の授業で習った「蒸留」を自宅でやってみたいと思い、空き缶とストローで蒸留機をつくり、お酒からアルコールを抽出したことがあった。あの時ほどワクワクして、化学を理解したいと思ったことはない。部活で卓球をしていた時、じぶんでラケットをつくったことがあった。あの時ほど貪欲に、卓球という行為や、木材について調べたことはない。
とくに今は、わかりたいという意欲さえあれば、ウェブやYouTubeで何でも学べる時代。じぶんで学びをつくっていく方が、学ぶことに愛着を持つことができ、深い学びにつながるのかもしれない。
不安になってあくせく消費するのではなく、こどもがわかりたいこと・やりたいことを見逃さないよう、広げてあげられるよう、心とお財布にちょっとした余裕を持っておくことを大切にしよう。
「ねぇ、どう思う?」
息子は、そんなことどうでも良さそうな顔をしていて、清々しい。こどもらしくいっぱい遊ぶだけで十分だよね。
数年後、「こんな田舎、出ていきたい!」なんて言い出すのだろうか。その時は、どこにだって飛び込んでいったらいい。学ぶ楽しさと、つくる面白ささえ知っていれば、キミはどこだってユートピアにできる、はず。
©︎kengai-copywriter 銭谷 侑 / Yu Zeniya
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