電通でコピーライターをしていたなかで、個人的に実証実験をしていたことがあります。
それは脳みそから「ことばのアイデアが生まれる方法論」を解明したいということです。
科学に法則があるように、「ことばのアイデア」にも普遍的な法則があるはずだと。
じぶんの商売道具でもあったので基本的には公開してこなかったのですが、電通退社をきっかけに、約7年間の「ことばアイデア」の探索とその実証実験の過程を公開します。
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①「コピーライティングシステム」のつくり方
徹底的に過去の名作コピーをみてじぶんでは思いつけないコピーを探します。そして「どうすれば、じぶんの頭からでも開発できるのか」を考えひとつひとつ法則化していきました。
それをひたすら7年間以上つづけていたのですが、そのなかで、コピーになっていることばは、「what to say」か「how to say」にアイデアがあるということがわかりました。※コピーの定義=「発見、共感、提案」のどれかがあり、人を動かすことば
そんな「what to say」「how to say」を生み出す法則をEvernoteのタグ機能を使って、蓄積していくことでシステムの構築していきました。
概念的なことだけだとわかりにくいと思うので、具体的な例をご紹介します。たとえば、
チョコをいっぱいもらうイケメンに、
チョコをあげたところで愛は伝わるでしょうか。引用元: 御菓子司亀谷
という和菓子屋のコピーを見つけたとします。what to sayに発見のある、心を動かされるコピーですよね。私だったら、このコピーからは以下のような法則を抽出します。
●what to sayの法則=【競合・代替手段の欠点】
つまり、その商品やサービスの競合を設定し、その欠点をwhat to sayにするということ。
Evernoteには、キャッチコピーを本文に、what to sayの法則をタグとして入力していきます。
つぎは、how to sayの法則で、もうひとつ具体的な例を紹介ます。
愛で地球を救う前に、ポイ捨てやめて原宿救おう。
というポイ捨て防止のコピーを見つけたとします。これはwhat to sayは「ポイ捨て防止」としかいっていないのでとくに発見・共感・提案もありません。これはhow to sayにアイデアを持たせることで、発見を出しています。ぼくは以下のように法則化しました。
●how to sayの法則=【対句させる】
※ぼくは、what to sayの切り口と区別化するために、how to sayの法則には「レトリック」という目印をつけました。
たとえばこれを1日30個ずつ、繰り返していけば1年で10950個のコピーを採集でき【what to say】と【how to say】の切り口も相当数、開発することができます。
ぼくの場合、Evernoteの法則部分はこんな感じ。(タグ表示)
※2014年当時の画像
キャッチコピーの情報も入れているので、法則(タグ)をダブルクリックすると、その法則のキャッチコピーも参照できるようにしています。たとえば、【競合・代替手段の欠点】をクリックするとその法則で開発されたコピーが大量に出てきます。
この「コピーライティングシステム」が構築できれば、オリエンがくるたびに、このシステムに当てはめて既存のコピーもヒントにしながら、コピーを開発できるようになります。次の章で、その具体的効果をお見せします。
②「コピーライティングシステム」の使い方
この章では、システムの具体的な使い方をご紹介し、このシステムの実用性をのをお見せいたします。
たとえば、「ひとりカラオケ専門店」のコピーをかけというお題が出たとします。このシステムがあれば、法則に当てはめるだけでコピーを開発できるようになります。※以下は、じっさいに制作したコピーです
what to sayの法則=【競合・代替手段の欠点】
に当てはめたら
たとえば、
what to sayの法則=【商品の魅力的な楽しみ方を提案する】
に当てはめたら
たとえば、
what to sayの法則 =【新しい価値観の定義・気づかなかった】
に当てはめたら
たとえば、
how to sayの法則=【対句させる】
に当てはめたら
「ひとりカラオケ専門店」以外での事例もお見せしましょう。たとえば「how to say」の法則を利用しじっさいに私が書いた事例をあげると・・・
ひとつは水素水のコピー。水素水のwhat to sayは、なにを書いても胡散臭くなると思い以下のhow to sayの法則を使いました。
【レトリック】言葉をかける・遊ぶ
「水素水を飲むと若々しくいられる」というなんの発見もないwhat to sayを、how to sayにアイデアを持たせることで以下のようにコピー化しました。
水素を原子記号の「H」にすることで、言葉を遊びを行いました。
最後に、もう一つ事例を見せると、ぼくがTCC新人賞をとった「“好き”に変はない展」の以下の作品。
これは以下の法則を使って、開発しています。
how to sayの法則=【喩える、言い換える】
what to sayは、「LGBTは、約7%いる」というただの事実。これだとただの説明でコピーにはなりません。7%を「左利きと同じくらい」と言い換えることで”そんなにいるの!”という発見を強めました。
【参考】「“好き”に変はない展」作品ページ
コピーのお題を与えられたら、このシステムに当てはめるだけで短時間で、多くの切り口でコピーを開発できることができます。どうですか?このシステムがあれば、コピーがかける気がしてきませんか?
③「コピーライティングシステム」の実証結果
ぼくはこの「システム」が、他の人の脳みそに移植できるが実験してみました。サンプル=新入社員のコピーライター
電通社内には、毎年、人権をテーマにしたコピーの賞があり、応募が約6000点くらいで、入選が20点。
ぼくはこのシステムを利用し、2014年度に4点入選しました。
2016年、新人のコピーライターにこの「コピーライティングシステム」を説明し、それをもとにコピーを開発してもらったところ・・・
2つ入選。2016年の最多入選です。
入選4点が2点になったので、ちょっと精度は落ちましたがこのコピーライティングシステムはある程度、移植できることが証明されました。
すこし精度が落ちた理由は、この「コピーライティングシステム」はぼくが使いやすいような設計になっているからだと考えています。
このシステムを移植するときは、一人ひとりに合わせて少しチューニングする必要があるのかもしれません。それでも精度50%でも移植できるのは、とても効果のあるシステムだと感じました。
④「コピーライティングシステム」のTVCM、キャンペーン企画への応用
私は、この「what to say」と「how to say」のシステムは、コピーだけではなく、TVCMのアイデアや、キャンペーンのアイデアにも応用できると考えました。人の心を動かす表現は、whatかhowにアイデアがあるというのは共通なのです。
whatで心を動かす:
新しいwhatの発見で、心を動かすwhatが新しければ、howが普通でも心は動く。
howで心を動かす:
whatが普通でも、新しいhowで心を動かす誰もが知っているwhatでも、新しいhowで面白く伝えることができる。
そこでコピーだけではなく、世界中のTVCMやキャンペーンを抽出し、「what to say」「how to say」を生み出す法則をEvernoteに蓄積するようにしました。
以下のキャプチャは、コピー、TVCM、キャンペーンの「how」の法則を一覧にしたEvernoteの画面。
この抽出作業を繰り返すことで、以下のことがわかってきました。
whatの方法論は、コピーもTVCMもキャンペーンも共通ということ。howの方法論は、コピー表現の「how」と、映像表現の「how」と、キャンペーン実施の「how」では、法則がちがうこと。
でも、どの表現方法でも、howの法則は可能なこと。おそらく建築のアイデアでも、プロダクトのアイデアでも、howの法則を抽出し、体系化することは可能でしょう。
つまり「コピーライティングシステム」は、howの方法論をバージョンアップしていけば、「TVCM企画システム」にも「キャンペーン企画システム」にも進化させることができるのです。
そして、あらゆる人間の創作活動において、ことばのアイデア(what to say)が軸になるということはコピーライター的には大きな発見でした。つまり、「すべての未来は、ことばのアイデアが原材料。」だということです。
7年間以上「コピー、映像、キャンペーン」の法則抽出を継続していて、街中のあらゆるものがwhatとhowに変換されて見えてきたり、正直、頭がおかしくなりそうになったときもありましたが笑、ぼくのなかでそこにたどり着けたのは大きな意味がありました。
以上、長文をお読みいただきありがとうございました。