こどもの名前に、コピーライターはどう向き合うか

こどもの名前に、コピーライターはどう向き合うか

こどもの名前に、コピーライターはどう向き合うか。

結論、どんなつけ方をしてもいい。
けれど、ぼく個人としては、コピーライティング的なアプローチで名前をつけることは避けたかった。理想の行動変容を定め、それを促すことばを開発していくようなプロセス。

こどもに何かの行動を期待するようなことや、じぶんのことばでこどもをコントロールするようなことは、できる限り排除したいと考えていたからだ。人を動かすことばの技術を、こどもの名前には使いたくなかった。

こどもがじぶんの意思で、生きていく性別や国籍さえも選べるような、そんな名前が良いと思っていた。
具体的に期待や願いを込めないかわりに、こどもがじぶんの人生を生きてくれるのなら、どんな生き方でも楽しみながら応援する覚悟を持とうと。


コピーライティングの手癖を封印し、じぶんの両手を縛りながら、それでも出てくることばは何なのか。
そんなことから夫婦で話し始め、大切にしたいポイントをあげていった。


1:じぶんで生きていく性別を選べる名前。けれど男性としてのアイデンティティも持てる名前に。

ぼくは「銭谷侑(ぜにやゆう)」という名前なのだが、「ゆう」という名はとても気に入っている。
女性でも男性でもあり得る名前で、性別にフラットに向き合えたからだ。もし源五郎や寅次郎という名だったら、呼ばれるたびに「じぶんは男性である」ことを意識せざるをえなかったと思う。

ぼくら夫婦から生まれてくるこどもは、身体の性は「男性」。
性別を限定しない名前でありつつ、(心も男性として生きていくのなら)男性としてのアイデンティティも持てる名前にできると良さそうだ。


2:じぶんで生きていく国籍を選べる名前。けれど日本人としてのアイデンティティも持てる名前に。

ぼくら夫婦はどちらも日本人だが、こどもが日本人として生きていくのかはわからない。外国語でも発音しやすい響きが良かろうか。

けれど、マイケルやエリザベスみたいな、振り切りすぎているのも何かちがう。海外でも発音しやすい響きだが、日本人もしくは日本生まれとしてのアイデンティティを見出せる名前が良いか。

3:画数がいい。(シンプルにw)

ぼくも妻も、両親が画数の良い名前をつけてくれた。とくにぼくは「運だけで生きてきた」というくらい運が良い。
姓名判断には半信半疑なスタンスではあるが、どうせなら画数がいい名前を。

4:あまり聞かない名前。けれど突飛すぎない、変ではない名前。

理屈ではなく、夫婦ふたりの感覚だ。ここは、ぼくら夫婦のエゴかもしれない。ありふれた名前よりは、ちょっとしたオリジナリティのある名前が好みだ。じぶんたち好みの「語感」と言い換えることもできる。

谷川俊太郎さんはある対談で「言葉の口調・文体というものは、自分のいちばん芯にあるもの。だから、なかなか変えられない」と話されている。
コピーライティングの手癖を縛り、なるだけ行動変容を促すことを排除し、それでも残るえぐみのようなものが、この「語感」なのかもしれない。 

上記の4つのポイントだけ夫婦で話し合い、あとは降りてくるだろうくらい能天気に過ごすことにした。
ある日、妻がふと口にした「織(おり)」という名に、夫婦ともにしっくりとくる。オリー(Olly, Ollie?)という響きも、声帯に心地よい。あとは生まれてきたこどもの顔をみて決めよう。

おいおい、それでは記事タイトルも「こどもの名前に、コピーライター(の妻)はどう向き合うか」だろうと、つっこみたくなる方もいるかもしれないが(笑)。

この文字も、妻が書いたもの(笑)

話は変わるが、昨年、庭にオリーブを植えていた。
オリーブには「平和の象徴」という意味があり、地植えすると1000年以上にわたって生き続けることもあるらしい。

親からこどもに何かを期待することはないが、こどもが生きる未来の世界が、今よりも平和であることは切に願う。そしていつかオリーブの実をおつまみにでもして、しっぽり飲めるといいなと思う。


2022年10月13日、息子がぼくらのもとにやってきた。   
顔をみて、「おりー」っぽい…!?(正直、見た目ではわからない)
でも理屈なくこの名前がいいなと思えた。

ぼくの汚いけれど、人生史上もっとも丁寧な文字で、出生届を書いて提出した。妻にはよく、利き手で書いても、左手で書いても、文字の汚さ一緒だよねと言われるけど。




改めて結論。どんなつけ方をしてもいい。
名づけに、技術なんていらない。でもあらゆる技術や理屈を排除した上でも残る、えぐみや芯の部分が、その人ならではの核なのかもしれない。


©︎kengai-copywriter 銭谷 侑 / Yu Zeniya
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