はだかの公園 / 育児エッセイ1歳5〜6ヶ月

はだかの公園 育児エッセイ1歳5ー6ヶ月編

 公園は、いろんな価値観の人が入り交じる魔境だと思う。

 いろんなこどもがいる。
 全裸で走りまわる開放的すぎる男の子。初対面のこどもにも「遊ぼっ!」と声がけをする、お姉さん気質な女の子。公園のルールを守らないこどもに注意する正義感の強い少年。ぼくの息子は今のところ、石を並べたり、たんぽぽの綿毛を集めたり、黙々と遊ぶのが好きなタイプのようだ。

 いろんな親もいる。
 こどもが変なことをすると、すぐに怒鳴るママさん。大小さまざまなラジコンを持ち込むガジェット好きなパパさん。本気の鬼ごっこを繰り広げる体育会系の家族。あと子育てするまで気づかなかったのだが、平日の公園には、顔が死んでる親もぽつぽつ見かける。

 先日、価値観のちがいで戸惑ったできごとがあった。

 「使っちゃダメ!」
 突然、滑り台を占領し始めた、幼稚園〜小学低学年くらいの姉妹。他のこどもたちが遊ぼうとすると、両手を広げて「ダメ!」と静止する。横にいた母親は「悪い子だねえ」と笑っている。こどもをすぐに注意する親とは対照的な人だ。

 ぼくの息子が滑り台に近づくと、ギャング姉妹たちは、滑り台の入り口に砂をまいて存在感を示す。そして「だれも滑れなくさせる」と言いながら、砂を滑り台に流し始めた。母親は「悪い子だねえ、悪い子だねえ」と相変わらずヘラヘラしている。

 遠慮がちにその様子を見つめていた息子に、母親が「使いたかったら言ってね」と話しかけてきた。いや、まだことばは話せないんだけどなぁ、ぼくは乱れた感情を鎮めることに必死で、「使わせてね」と代わりに言ってあげるような機転も利かず、立ちすくむことしかできなかった。

 しばらくして姉妹が油断しているすきに、息子は滑り台の階段を登り始める。転げ落ちないように、妻が後ろからついていき登りきると、滑り台の滑走路にはこんもりと積もった砂。このまま滑ったら砂まみれになってしまうので、ぼくは急いで滑り台に積もった砂を手で払う。

 そのとき「ここは公共物だぞ」と心の内で思っていたことを、ぼそっとつぶやいてしまう。聞こえたかどうかわからないが(たぶん聞こえていない)、その母親はちょっとこちらを気にかけたかのように見えた。その後、とくに何かあったわけでもないが、なんだか公園に行きづらくなったなぁと思いながら帰路に着いた。

 その夜、ぼくは妻に「あの親にイラっとしなかった?」と聞く。
「え?相手の親の態度がどうとかは考えていなかった。だってこどもは親になんて言われようが、好き勝手にする子はするし」 
 ぼくが煮え切らない顔をしていると、妻は続ける。
「だからこそ織ちゃん(息子)が、必要以上に他の子に怯んだり遠慮することがないようサポートしたい。まず、わたしたちも堂々と生きる」

 ちょっと前に、妻も児童館で同じようなことがあったという。
 息子がおもちゃを手に取った直後に、年齢が少し上の女のコに「貸して!」と手からおもちゃを取られてしまった。しばらく悲しい顔をしていた息子を見て、「いま持ったばかりだから、もうちょっと遊んでから貸すね」などと対応すればよかったと後悔したらしい。

 だれでも入れる公園は、学校や職場よりも、ずっといろんな人が集まる。とくに天真爛漫なこどもの前では、どんなに仮面を取り繕っていても、予想外の動きに掻き乱されて、大人の人間性や価値観が真っ裸にされる。どうせ、みんな裸にされるなら、堂々と生きてやろう。

©︎kengai-copywriter 銭谷 侑 / Yu Zeniya

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